防火設備定期検査とは
これまで防火設備の点検は、特定(特殊)建築物の定期調査で行っていましたが、平成25年10月に発生した福岡市診療所での火災死亡事故を受け、平成28年6月より新たに「防火設備定期検査」が新設されました。
この事故では、防火扉が適切に機能しなかった等の理由で被害が拡大したとされ、防火設備の維持管理強化を主たる目的として、建築基準法の定期報告制度に新たに追加されることとなりました。
防火設備自体の設置については建築基準法で定められておりますが、各感知器との連動制御部分は消防法の区分になります。
その為、各建物で実際に防火扉や防火シャッター等の作動確認がどの程度実施されているかは不透明な状況でした。火災発生時には、被害の拡大を最小限に抑えるために、非常に重要な設備となるゆえに 今回の法改正でチェック体制を明確にしたということになります。
弊社では平成30年度、公共建築物で約100物件の検査実績がございました。
報告書の提出先
定期検査を行った後に防火設備定期検査・報告書を下記の役所の出先機関(センター・協会等)または、役所(建築指導課または、土木事務所等)に提出いたします。 “ただし、関東地区においても、提出先が、都道府県で異なりますので、注意が必要です。 特定建築物定期調査資格者等の本人が提出致します。”東京都公益財団法人 東京都 防災・建築まちづくりセンター(渋谷区)埼玉県財団法人埼玉県建築住宅安全協会(さいたま市)神奈川県一般財団法人神奈川県建築安全協会(横浜市)神奈川県 横浜市横浜市建築局建築審査課にも提出可能神奈川県 川崎市川崎市まちづくり局指導部建築監察課にも提出可能千葉県・茨城県・群馬県市役所の建築指導課または、所轄土木事務所
実施時期
建築設備の定期検査と同じく「おおむね6月から1年まで」の報告が必要となっているため、毎年の検査・報告が必要です。
また、建築設備では設置箇所が多数ある場合には、3年間で全数の検査が完了でしたが、防火設備の検査では「毎年、全数検査」になります。
対象の防火設備が設置されている場合は、すべての防火設備について作動の上、検査を行うことになります。
検査に必要な資格
主に一級建築士・二級建築士、防火設備検査員となります。
ただし、感知器の連動や、防火シャッターの起動、さらにはドレンチャーといった特殊な設備検査も含まれるため、消防点検会社や専門のメンテナンス会社、メーカーの技術者等と協力して検査を実施する必要となります。
よって、弊社では各メーカーのスタッフや専門技術者と協力の上で、全ての案件に対応しております。
※建築士は、報酬を得て検査業務を請け負う場合は、建築士資格の免状を持っているだけでは検査を行うことはできず、必ず各都道府県への建築士事務所登録が必要となります。
防火設備定期検査「基準」
防火設備定期検査の検査項目として、大きく分類すると、4項目があります。
防火設備定期検査はこの4項目を一定の基準に従い、事故が起きないように検査するものです。
簡単にどのような検査なのか、下記で説明致します。
防火扉の検査
防火設備検査で対象となる防火扉は ※1「随時閉鎖式」 のものになります。
これに対して「常時閉鎖式」の防火扉は機構が単純な為、特定建築物の定期調査の際に点検します。
熱感知器や煙感知器を実際に作動させ、連動を確認し、扉が完全に閉まるかを確認します。
また作動の際に扉の「運動エネルギー」と「閉鎖力」の測定も行います。 これは避難時に勢い良く扉が閉まると挟まれて怪我をする恐れがあることから、一定の基準値以下であることが前提となります。
*「運動エネルギー」は10J以下、閉鎖力は150N以下が判定基準となります。
※1「随時閉鎖式」
普段は開放されているが、火災時に感知器もしくは熱感知器に連動して自動的に閉鎖方式の扉になります。
また、感知器、熱感知器の他に、温度ヒューズ閉鎖式も存在しており、火災時に温度ヒューズが溶解することにより、ストッパーが外れ閉鎖するものになります。(こちらも検査報告の対象です。)防火扉の検査ポイント
- 感知器にて連動作動するか
- 扉本体に破損はないか
- 閉鎖障害はないか
- 運動エネルギー・閉鎖力は基準値を超えていないか
防火シャッターの検査
防火シャッターは、比較的大きな開口を有する空間を閉鎖する場合に設置されます。
主に、病院やスーパー、ショッピングモールなどの複合施設のエスカレーターや吹き抜け等に設置されており、感知器にて連動作動、もしくは非常ボタンで閉鎖作動します。
検査方法は防火扉と同じように感知器を作動させ、連動動作を確認し、シャッターが閉まりきるか確認します。
その際、地盤面から1mの高さからシャッターが何秒で降下するかを測定します。
これにより、運動エネルギーが規定値を超えていないかを確認します。
シャッターには、シャッターを巻上げる機械が上部や天井裏にありますので、内部の劣化損傷なども併せて確認します。
また防火シャッターには、降下時に挟まれて怪我をすることを防止するため「危害防止装置」が設置されているものがあります。
(※平成17年12月以降の防火シャッターに装着が義務化されました。) この危害防止装置が感知・作動するかも確認が必要です。
具体的には、シャッターの底部(座板)に接触したら降下が5cm以内で一旦停止し、再降下しなければなりません。
*「運動エネルギー」は10J以下が判定基準となります。防火シャッターの検査ポイント
- 感知器にて連動作動するか
- シャッター本体に破損はないか
- 駆動部の状況確認
- 運動エネルギー基準値を超えていないか
耐火クロススクリーンの検査
耐火クロススクリーンとは、防火シャッターと同じように天井から特殊なスクリーンが降下してきて防火区画を形成します。
設置場所としては、小さなものはエレベータの前に、比較的大きなものは病院や倉庫などに設置されています。
耐火クロススクリーンは、ガラスクロス製でできており炎と煙を遮断します。 特徴としましては、防火シャッターに比べて非常に軽量で、柔らかい素材でできているため万が一接触しても安全です。
避難する際は持ち上げるか、切れ目をめくり上げる形で通ることができます。
検査内容は防火シャッターと同様に、感知器と連動しきちんと閉鎖するか、また各部に損傷がないかなどを確認していきます。
耐火クロススクリーンには、「巻取り式」と「バランス式」があります。
巻取り式耐火クロススクリーンには、危害防止装置がついていますので、接触時に停止し、障害物がなくなれば再降下するかをみます。
エレベーターの前など比較的小さな開口部に使用するバランス式耐火クロススクリーンには、危害防止装置の設置はありません。
*「運動エネルギー」は10J以下、閉鎖力は150N以下が判定基準となります。耐火クロススクリーンの検査ポイント
- 感知器にて連動作動するか
- スクリーン本体に破損はないか
- 閉鎖障害はないか
- 運動エネルギー・閉鎖力は基準値を超えていないか
ドレンチャーの検査
ドレンチャーとは、火災時に天井等の散水ヘッドから水が噴射し「水幕」を形成することで火煙の広がりを遮断する装置です。
設置されている建物が非常に限られており、駅や空港その他大規模施設など、 シャッターなどでは閉鎖できない大空間を有する建物で設置されているケースが多いです。
定期検査報告の対象となるドレンチャーは、あくまで防火区画を形成する防火設備として認定されたものとなりますので、類似の設備にスプリンクラーがありますが、こちらは火災時の初期消火を目的とするもので、ドレンチャーとは意図が異なります。
文化財建築物などに設置されている延焼防止用の設備も同様です。
作動時には相当量の水量が散水されるので、実際に災害時と同じ状況を想定しての検査をすることはできません。
その為、全国でも数えられるほどの施設でしか設置されていません。ドレンチャーの検査ポイント
- 散水ヘッドの腐食の有無
- 貯水槽の劣化及び損傷状況確認
- 送水装置の設置状況確認
- 開閉弁の設置状況確認